安全編 —— 労安法・ISO 10218・リスクアセスメント

安全編 —— 労安法・ISO 10218・リスクアセスメント

はじめに一つ、断っておきます。この記事は法令と規格の一般的な解説であって、個別の機体や現場に対する安全の判定でも、法的助言でもありません。条文番号、告示番号、規格番号まで書きますが、実際のリスクアセスメントや導入判断は、専門家、認証機関、労働基準監督署に必ず確認してください。そのうえで、安全という工程の地図として読んでください。

前回、海外製ロボットを日本に輸入する法体系を扱いました。無事に輸入した機体を、次は人のいる現場で動かします。ここで問われるのが安全です。そして日本の産業用ロボット安全規制は、1983年の機械観で書かれています。腕はあるが脚はなく、柵の中で動く機械の想定です。柵の外を歩くヒューマノイドは、この枠のどこに落ちるのか。答えは、条文の中にあり、そして条文の隙間にあります。

1983年の機械観と、三本の柱

日本で産業用ロボットの安全規制が整ったのは、1983年前後です。産業用ロボットが工場に急速に普及し、死亡事故が起きたことが背景にありました。労働安全衛生法とその規則である労働安全衛生規則(安衛則)は、この機械を三本の柱で縛りました。

第一の柱は、特別教育です。安衛則第36条は、危険な業務に就く労働者への特別教育を定め、その第31号が産業用ロボットの教示等の業務を、第32号が検査等の業務を挙げています。ここには正確に読むべき限定があります。第31号の教示等は、駆動源を遮断して行う場合は除かれ、一方で可動範囲の外で行う関連機器の操作は含まれます。第32号の検査等は、運転中に行うものに限られます。この限定を読み違えると、要らない教育を課すか、要る教育を飛ばします。

第二の柱は、運転中の接触防止措置です。安衛則第150条の4は短い条文です。産業用ロボットの可動範囲内で労働者が作業を行うとき、接触により危険が生ずるおそれがあるときは、「さく又は囲いを設ける等当該危険を防止するために必要な措置を講じなければならない」。柵で囲え、という発想がここにあります。第三の柱は、作業規程です。第150条の3は、教示等の作業を行うとき、ロボットの操作方法や手順、異常時の措置、複数人で作業するときの合図の方法などを定めた作業規程によることを求め、あわせて可動範囲内で作業する労働者が即時に運転を停止できる措置と、他の者が起動装置を操作しないための措置を課します。第150条の5は、検査、修理、調整などを原則として運転を停止して行うことを求め、起動装置に施錠するか表示を出すことを課します。運転を止めずに検査等を行う必要があるときにだけ、作業規程と監視などの条件のもとで例外が認められます。これらの措置を現場でどう具体化するかは、同じ1983年に厚生労働省が示した「産業用ロボットの使用等の安全基準に関する技術上の指針」が補います。法が三本の柱を立て、指針がその中身の目安を与える構造です。

そしてこの規制には、有名な除外があります。定格出力80ワット以下の機械は、産業用ロボットの規制から外れる。この除外の正確な文言は、後で見るように、素朴な理解とはずれています。

適用条件を、条文から読む

規制がかかるかどうかは、まず定義に当てはまるかで決まります。ここで最初の誤解を正します。産業用ロボットの法令定義は、告示ではなく、安衛則第36条第31号の条文の中にあります。逐語ではこうです。「マニプレータ及び記憶装置……を有し、記憶装置の情報に基づきマニプレータの伸縮、屈伸、上下移動、左右移動若しくは旋回の動作又はこれらの複合動作を自動的に行うことができる機械」。三つの要素があります。マニプレータ(腕)を持つこと、記憶装置を持つこと、その情報に基づいて動作を自動的に行うこと。この定義には、続けて除外の但し書きがあります。「研究開発中のものその他厚生労働大臣が定めるものを除く」。産業用ロボットに当たるかどうかは、三つの要素を満たすことに加えて、この但し書きが指す除外に乗らないことまで見て決まります。厚生労働大臣が定める除外の中身が、次に読む告示です。

ヒューマノイドは腕を持ち、記憶に基づいて自律的に動きます。機能要件だけを見れば、この定義に該当しうる形をしています。では80ワットの除外はどうか。ここも正確に読みます。この除外は、昭和58年労働省告示第51号にあります。告示は、産業用ロボットの定義から三つの機械を外しています。第一号が、定格出力80ワット以下の駆動用原動機を持つ機械です。第二号が、固定されたシーケンスにより単調な反復動作だけを行う機械です。第三号が、労働基準局長が個別に認定した機械です。素朴に語られる「80ワットの除外」は、この三つのうちの第一号にあたります。そしてその第一号の文言も、正確にはこうです。「定格出力(駆動用原動機を二以上有するものにあつては、それぞれの定格出力のうち最大のもの)が八〇ワツト以下の駆動用原動機を有する機械」。機体の合計出力ではありません。複数のモーターがあれば、その一つひとつの最大定格で判断します。多数の関節モーターを持つヒューマノイドは、どれか一つでも80ワットを超えれば、第一号の除外には乗りません。自律で動作を変える機体は第二号の単調反復にも当てはまりにくく、第三号の個別認定もないなら、三つのどの除外にも乗らないという読みになります。

そして、条文は動きます。それを示すのが協働ロボットの前例です。厚生労働省は2013年12月24日の通達、基発1224第2号で、リスクアセスメントに基づく措置により「危険の生ずるおそれが無くなったと評価できるとき」は、第150条の4の「危険が生ずるおそれのあるとき」に該当しない、と示しました。柵で囲わなくても、リスクアセスメントで危険がないと評価できれば、柵なしで人と協働できる。ただし評価結果は指針に基づいて記録・保管し、ISO 10218への適合設計や技術ファイル、適合宣言書が前提です。この通達の細部の判断例は、同じ日付の基安安発1224第1号に示されており、たとえば人とロボットとの間に500ミリメートル以上の間隔を確保するといった、数値をともなう目安が挙げられています。柵という1983年の発想が、条件つきで解かれた。条文は固定されているように見えて、リスクアセスメントを介して動きます。

国際規格の地図

労安法の内側だけでは、安全は設計できません。国際規格が、実務の中身を埋めます。ここには四つの規格が、それぞれ守備範囲を持って並んでいます。

産業用ロボットの安全は、ISO 10218です。第1部が機体、第2部がシステム統合を扱い、2025年2月に第3版が発行されました。この二部構成は、責任の分担にそのまま対応します。機体を造るメーカーが第1部を、その機体を現場のシステムに組み込むシステムインテグレーターが第2部を負う。前回扱った輸入の主体と、今回の統合の主体が、別の部で評価される構造です。ところが、ここに現在進行形のズレがあります。日本の通達が引いているのは、いまも2011年版です。対応する日本産業規格のJIS B 8433も、2015年版のままで、これは2011年版に対応します。国際規格は2025年版に進んだのに、通達とJISは2011年の地点にある。どちらを基準に設計し、どちらで認証を語るのかを、案件ごとに確かめる必要があります。海外メーカーが2025年版を基準に設計し、国内の通達が2011年版を引くとき、技術ファイルや適合宣言書がどちらの版に対応しているかを、案件ごとに突き合わせる作業が生まれます。

協働ロボットの力と圧力の限界は、ISO/TS 15066です。人に触れてもよい力の上限を、身体の部位ごとに数値で示した技術仕様です。この要求の主体は2025年版の10218-2に統合されましたが、技術仕様そのものは廃止されていません。いまも有効な文書として残っています。「統合された」ことと「廃止された」ことは違います。

そして、柵の外には別の体系があります。ISO 13482、サービスロボットの安全規格です。2014年版は対象を三つの類型に分けました。移動して働くmobile servant robot、人の動作を支援するphysical assistant robot(装着型はこの下位区分にあたります)、人を乗せて運ぶperson carrier robotです。対応するJISはB 8445と、その下のB 8446シリーズで、なかでもB 8446-4はマニピュレータを備える移動作業型を扱います。腕を持って動き回るサービスロボット、つまりヒューマノイドにもっとも近い規格が、このB 8446-4です。ただしヒューマノイドは移動もし、腕でも作業するため、三つの類型のどれか一つにきれいに収まるとは限りません。腕付き移動型に最も近いB 8446-4があっても、自律で人と空間を共有する部分までを書き切っているわけではありません。認証は、日本ではJQAがISO 13482に基づくサービスロボット認証を提供していますが、これは任意の認証であって、法律で強制されるものではありません。

産業用ロボットの10218系は柵の中を、サービスロボットの13482系は柵の外を守備範囲にする。そしてその両方の土台に、機械一般の安全設計を定めるISO 12100があります。

ヒューマノイドは、どこに落ちるのか

ここが、この講座がもっとも深く踏み込む場所です。柵の外を自律で歩き、腕で作業するヒューマノイドは、この地図のどこに落ちるのか。

まず、正直に共有すべき事実があります。この問いに答える官公庁の正式な解釈例規やQ&Aは、調べた範囲では見当たりませんでした。厚生労働省の通達データベースも、労働安全衛生の法令検索も探しましたが、「ヒューマノイドは産業用ロボット規制の対象か」を正面から示した公式文書はありません。この不在そのものが、本講座がこの整理を書く理由です。解釈が定まっていないことは、規制がないことを意味しません。定義に該当すれば規制はかかり、その該当性の判断だけが現場に委ねられている状態です。

唯一、近い官方文書があります。2013年4月19日、規制改革会議の創業等ワーキンググループに厚生労働省の安全課が出した資料です。そこにはこうあります。「人間の操作等で動作を行う介護ロボット、生活支援ロボットなどは規制対象ではない」。この一文を、限定語を落として引くと誤読します。核心は「人間の操作等で動作を行う」という条件節です。規制対象でない理由は、介護や生活支援という用途だからではありません。「自動的に行う」という定義の要件を満たさないからです。人が操作して動くロボットは、定義の「自動的に」に当てはまらないので、規制の外にある。裏を返せば、自律的に動作するヒューマノイドは、この文言の射程の外です。用途で除外されるのではなく、機能要件に戻って個別に判断することになります。

だから答えは、場面によって分かれます。工場の中で自律作業をするなら、定義の三要素と告示51号の三つの除外に照らして、産業用ロボット規制の射程に入りうる。射程に入るなら、特別教育、接触防止措置、作業規程の三本柱がそのままかかります。柵を外して人と協働させるなら、基発1224第2号のとおり、リスクアセスメントと記録・保管、ISO 10218への適合設計、技術ファイル、適合宣言書までがひとそろいの条件になります。施設や公共空間で働くなら、地図は変わります。産業用ロボット規制は工場の作業を想定しているため、施設のなかを自律で動くだけの機体には直接は届きにくく、代わりに13482系のサービスロボットの体系、施設管理者の責任、そして隣接する法規が前に出ます。施設警備に関わるなら警備業法、公道を移動するなら道路交通法や道路運送車両法が視野に入ります。ただし13482系の認証は任意であり、機体が自動的に業務を行い、そこに労働者が関わるなら、労働安全衛生法の側の一般的な安全配慮は消えません。実証実験なら、個別の安全評価です。羽田のヒューマノイド実証で、日本航空が「安全評価」を担う分工になっていたのは、この個別評価が実務の入口だからです。

羽田のヒューマノイド実証。要件と安全評価をJAL、運営をJALグランドサービス、ロボットと動作プログラムをGMO AIRが担う分工。新型ロボットの安全は、既存の枠がないなかで個別の安全評価から始まる(出典:JAL・JGS・GMO AIR、2026)

そして、どの枠にも完全には落ちない場面があります。柵の外を歩き、人と空間を共有し、自律で腕を動かす。産業用ロボット規制は柵の中を想定し、サービスロボット規格は腕付き自律型を書き切れていない。このとき実務がすることは一つです。既存の枠を待つのではなく、リスクアセスメントで自ら安全の枠を作る。

リスクアセスメントの実務手順

枠がないなら、自分で引く。その手順の土台が、機械安全の一般規格ISO 12100です。手順は三段です。まず危険源を同定する。次にリスクを見積もり、評価する。そして対策を打つ。対策には優先順位があります。第一に本質的な安全設計、つまり危険源そのものを設計で除く。第二に工学的な対策、隔離やインターロックで危険に近づけない。第三に管理的な対策、教育や手順で運用を縛る。この順序が原則です。人を柵で囲うのは第二段の一手であって、最初の答えではありません。そして本質安全設計と工学的な対策で消し切れずに残ったリスクは、使用上の情報として、取扱説明書や警告表示、残留リスクの一覧の形で使い手に伝えます。ISO 12100は、この情報提供までを一続きの手順に含めています。協働ロボットで身体の部位ごとに接触してよい力の上限を数値で定めたISO/TS 15066の考え方は、この見積りと評価の段で、触れてよい力を具体的な数値に落とすときの手がかりになります。

ロボット特有の危険源も並べておきます。可動部への挟まれ、機体の転倒、把持物の落下、そして予期しない起動。ヒューマノイドは重心が高く、自律で動くため、産業用アームとは危険源の分布が違います。転倒と、人と同じ動線を歩くことによる衝突が、新しく重くなります。人と同じ空間で物を運ぶなら、把持物の落下は人の頭上や足元の危険に変わります。予期しない起動は、第150条の3が起動防止の措置を求めた危険そのものです。1983年の条文が名指しした危険が、自律機ではソフトウェアの誤作動という新しい形で戻ってきます。実証実験の安全計画書には、これらの危険源ごとに、どの段の対策を打つかを書き込みます。危険源の一覧、想定するリスクの大きさ、対策とその優先順位、そして残ったリスクの扱い。これが安全という工程の具体的な成果物です。そしてリスクアセスメントは一度で終わりません。機体やソフトウェアを更新すれば危険源の分布が変わるため、その都度、評価をやり直します。

特別教育の実務

最後に、忘れられがちな実務を一つ。産業用ロボットの教示や検査に労働者を就かせるなら、特別教育が要ります。この教育の根拠は労働安全衛生法第59条第3項にあり、その対象業務を安衛則第36条が列挙しています。第31号の教示等と第32号の検査等がそれです。ここでも先ほどの限定が効きます。第31号は駆動源を遮断して行う場合を除き、可動範囲の外での関連機器の操作を含みます。第32号は運転中に行う検査等に限られます。誰にどの教育が要るかは、この線引きで決まります。学科と実技で法定の時間が定められ、労働基準協会やメーカー、民間の教育機関で受講できます。費用はおおむね二万円から五万円の範囲で、中央労働災害防止協会などの教材が使われます。

この教育を、機体が海外製のヒューマノイドだからと飛ばすことはできません。もしその機体が産業用ロボットの定義に該当し、除外に乗らないなら、教示等の業務には特別教育が要る。安全は、条文の外にある新しい機械にも、条文の側から手を伸ばしてきます。

おわりに

日本の産業用ロボット安全規制は、1983年の機械観、腕はあるが脚はなく柵の中で動く機械を想定して書かれています。ヒューマノイドは、機能要件だけを見れば定義に該当しうる形をしており、80ワットの除外も原動機単位で読めば乗りません。しかし柵の外を自律で歩く機械を、この規制も、サービスロボットの13482系も、まだ書き切れていません。ヒューマノイドがどこに落ちるかの公式見解は、調べた範囲では存在せず、唯一近い2013年の資料も「人間の操作等で」という限定語のなかにあります。

だから安全は、既存の枠に機体を当てはめる作業ではありません。工場か施設か公共か実証か、場面ごとに関わる体系を見極め、どの枠にも落ちないところは、リスクアセスメントで自ら枠を作る。それが、新型ロボットを現場に立たせる安全工程の実像です。

もう一度だけ申し添えます。ここに書いたのは条文と規格の地図であって、個別の機体が規制に該当するかしないかの判定ではありません。該当性は機体ごとに変わり、条文も規格も改正されます。実際の判断は、専門家と認証機関と労働基準監督署に必ず確認してください。

次回は第5回、現場評価編です。安全に動かせると見極めた機体を、実際の現場に据えるために、動線・通信・電源・照明といった現場の条件を測る工程を扱います。ロボットフレンドリーな環境整備と、現場を三次元で持つことが、なぜ導入の一工序になるのかを掘り下げます。


本記事は「Physical AI 導入実務講座」シリーズの第4回です。本記事は一般的な解説であり、安全判定や法的助言ではありません。次回は現場評価編を扱います。スライド資料(PDF)は無料でダウンロードいただけます。

出典

  • 労働安全衛生規則 第36条第31号(産業用ロボットの定義・教示等の特別教育)・第32号(検査等)e-Gov 現行版 ※定義は本号の条文内、原文表記「産業用ロボツト」
  • 昭和58年労働省告示第51号(80ワット除外の文言:駆動用原動機ごとの最大定格・固定シーケンス・労働基準局長認定)厚生労働省法令DB/JAISH
  • 労働安全衛生規則 第150条の3(教示等の作業規程)・第150条の4(接触防止措置・柵又は囲い等)・第150条の5(検査等)e-Gov
  • 基発1224第2号(平成25年12月24日・協働ロボット)※リスクアセスメントで「おそれのあるとき」に該当しないとする措置・記録保管・ISO 10218:2011適合。厚生労働省法令DB/リーフレット
  • ISO 10218-1:2025・ISO 10218-2:2025(Edition 3、2025年2月)/ISO/TS 15066:2016(10218-2:2025へ統合、未廃止)
  • JIS B 8433-1/-2(2015年版・ISO 10218:2011対応。2025年版対応のJIS改正は2026-07-24時点で未確認)JISC
  • ISO 13482:2014(三類型:mobile servant/physical assistant〔装着型は下位区分〕/person carrier)/JIS B 8445・B 8446-1〜4(B 8446-4=マニピュレータを備える移動作業型)
  • JQA サービスロボット認証(ISO 13482に基づく任意認証)
  • 規制改革会議 創業等WG 資料1-1(2013年4月19日・厚生労働省安全課)※「人間の操作等で動作を行う介護ロボット、生活支援ロボットなどは規制対象ではない」(会議資料であり解釈例規ではない。限定語「人間の操作等で」が核心)
  • ISO 12100(機械安全・リスクアセスメントと対策の三段階)
  • Aviation Wire「羽田空港でヒューマノイドロボットの実証」(2026-04-27)※JAL=要件・安全評価の分工
  • 中央労働災害防止協会 特別教育テキスト/各労働基準協会(特別教育の受講先・費用相場2〜5万円)/RRI「協働ロボットの安全解説書」(2023-03)

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