ナビゲーションと運動計画。自律で「行って撮る」を、どう成り立たせるか

ナビゲーションと運動計画。自律で「行って撮る」を、どう成り立たせるか

第6回まで、認識、状態、判断と降りてきました。撮り、覚え、判断する。ここまでは、頭の中の仕事でした。今回からは、その頭の判断を、体の動きに変える段階、行動に入ります。第7回は、その最初の一歩、どこへ行って何を撮るかを決め、そこまで安全に動く、ナビゲーションと運動計画です。

点検で「取得を自動化する」と言うとき、多くはこの段階を指しています。人が高所に登って撮っていた作業を、ドローンやロボットが代わりに行く。行って、撮って、帰ってくる。この一連を、人が一つひとつ操縦するのではなく、自律で成り立たせる。今回は、動きを決める運動計画と、決めた動きを安定に実行する制御を原理からたどります。それらは、自律の巡検として一本の流れに組み上がります。そして最後に、この「運び方」を、国の制度は分類ではなく性能として位置づけています。

状態から動作へ:運動計画

ロボットが「あそこまで行く」と決めたとき、実際にどう動くかを決めるのが、運動計画です。まっすぐ行けばいい、とは限りません。間に柱があり、桁があり、狭い隙間がある。ぶつからずに、目的の場所まで、どんな経路をたどるか。これを解きます。

考えるための舞台が、少し独特です。私たちは、ロボットが空間のどこにいるか、で位置を考えがちですが、計画では、ロボットが取りうる姿勢の全体を、一つの空間と見なします。アームであれば、各関節の角度の組み合わせ。ドローンであれば、位置と向き。この、取りうる姿勢の一つひとつを点とした空間の中で、ぶつかる姿勢は入れない領域、ぶつからない姿勢は通ってよい領域になる。目的の姿勢まで、通ってよい領域の中だけを通ってつなぐ道を探す。これが、運動計画の見方です。現実の障害物の形は複雑でも、この姿勢の空間に移して考えると、道探しの問題として、すっきり扱えます。

解き方は、大きく二つの流儀に分かれます。一つは、乱択で試すサンプリング系です。取りうる姿勢を、でたらめに少しずつ選んでは、そこがぶつからないか、そこまで安全に行けるかを確かめ、行けるなら道の木を一本、その方向へ伸ばす。これをくり返して、木が目的地に届いたら、そこまでの経路が見つかったことになる。代表的なのがRRTと呼ばれる方法です。速く、複雑な形にも強い反面、出てくる道は、かくかくと不格好になりがちです。しかも、最初に見つかった道が、いちばん短い道とは限りません。そこを継いだのがRRTです。木を伸ばすたびに、近くの枝を、より短い道に貼り替えていく。試す点を増やすほど、得られる道が最短の道へ近づいていく、という性質を持たせた改良版で、時間をかけるほど質が上がる。速さのRRTと、質のRRT。狙いに応じて、どちらに寄せるかを選びます。

もう一つは、滑らかさを最初から求める最適化系です。始点から終点までの道を、一本の曲線として置き、その曲線を評価する物差しを決める。障害物から離れているほど良い、短いほど良い、急に曲がらずなめらかなほど良い。この三つを、それぞれどれだけ重んじるかの重みをつけて、一つの点数にまとめる。あとは、その点数がいちばん高くなるように、曲線の形を少しずつ動かしていく。坂道を下るように、少し動かしては点数を見て、良くなる方へまた動かす。この軌道最適化は、なめらかで無駄のない道を出せる反面、弱みもはっきりしています。重みのつけ方一つで、安全を優先するか、短さを優先するかが変わる。そして、坂を下る先に、本当の最善ではない、その周りだけで低い窪みがあると、そこに落ち着いてしまう。最初の置き方が悪いと、このへんな窪みから抜け出せない。だから実務では、まずサンプリング系でおおまかな道を見つけ、それを最初の置き方にして、最適化系でなめらかに磨く、という二段構えがよく使われます。乱択で当たりをつけ、最適化で仕上げる。役割を分けるわけです。

計画には、二つの層があります。出発から目的地までの大きな道すじを描く全体の計画と、進みながら、目の前に急に現れたものを、その場でよけていく局所の計画です。地図にない作業員が横切る、風で何かが揺れて近づく。こうした、あらかじめ地図に描けない動くものは、全体の計画では扱いきれません。だから、大きな道を全体の計画で引きつつ、その道の上を進む間、目の前の障害だけを見て、すばやくよけ続ける局所の反応を、別に走らせる。局所の反応は、いま出せるいくつもの動き方、たとえば、少し右へ、少し左へ、速く、遅くといった候補を、その場で並べ、それぞれについて、ぶつからないか、大きな道からどれだけ外れるか、どれだけなめらかかを短い時間で採点し、いちばん良い一つを選んで、すぐ実行する。これを、進みながら何度もくり返す。遠くの見通しと、近くの反射。この二層があって、はじめて、動く現場の中を安全に進めます。

そして点検には、もう一つ特有の計画があります。どこを通るか、だけでなく、どこから撮るか、です。第2回で見たとおり、測りたいひび割れの細さから、必要な一画素の実寸が決まり、そこから撮影の距離とレンズが逆算されました。撮るべき位置は、この段階で、すでに決まっている。運動計画は、その撮るべき位置を、対象の面をもれなく覆うようにつなぎ、しかも短く、安全に回る順序を組み立てる。ただ目的地へ行くのではなく、狙った品質で対象を撮りきるための経路を引く。ここが、運搬のための計画と、点検のための計画の、違うところです。

軌道を、安定に追う:制御

計画は、あくまで紙の上の道です。実際のロボットは、風に流され、重さで沈み、思ったとおりには動きません。計画した軌道を、現実のずれを直しながら、その通りに追わせるのが、制御です。

制御の背骨は、フィードバックです。今どこにいるかを測り、いるべき場所とのずれを見て、そのずれを打ち消す方向に力を加える。ずれたら直し、また測り、また直す。この閉じた輪をすばやく回すことで、外乱があっても、軌道の上に留まる。

打ち消し方にも、工夫があります。素朴には、ずれが大きいほど強く戻す。しかしそれだけだと、行き過ぎて反対側へずれ、また戻して、と揺れが止まりません。そこで、今のずれの大きさに加えて、ずれがどれだけ速く縮まっているか、そしてずれがどれだけ長く続いてきたか、という三つを合わせて、戻す力を決める。近づきすぎたら早めにブレーキをかけ、なかなか消えない小さなずれには粘り強く力を足す。この三つの合わせ技が、揺れずに、素早く、狙いに収める制御の、いちばん基本の形です。

ここで効いてくるのが、速さです。第1回で見たヒューマノイドのHelixで、全身のバランスを扱う最下層が毎秒千回動いていたのを思い出してください。倒れないため、ぶつからないためには、この輪を、毎秒数百回から千回という速さで回す必要があります。判断は遅くてよくても、体を支える制御は、速くなければならない。風のような外乱を、いかに速く見つけて、いかに速く打ち消すか。制御の良し悪しは、この速さと、打ち消し方の設計で決まります。

もう一歩進んだやり方が、モデルを使う制御です。ロボットが、自分がこう動けば次はこうなる、という自分の動きのモデルを持ち、少し先までを予測して、いま出すべき力を、その予測が最も良くなるように決める。次の一手を出したら、また今の状態を測り直し、また少し先を予測して、次の一手を決める。この、予測しては最適化し、を毎ステップくり返すやり方を、モデル予測制御と呼びます。ここには、先ほどの軌道最適化と似た計算が、毎ステップ、動きながら回っています。ただし窓が動くのがみそで、いつも今から数手先までだけを見て、その範囲で最善の一手を打ち、一歩進んだら窓ごと先へずらして、また解き直す。この動く窓のおかげで、途中で状況が変わっても、そのつど織り込み直せる。

モデル予測制御の強みは、もう一つあります。守るべき約束事を、はじめから解に織り込めることです。この関節はここまでしか曲がらない、この速度は超えてはいけない、モーターの力はここが上限、といった限界を、予測の中で守らせながら、その中での最善を選ぶ。限界を無視して突っ走り、あとから慌てて止めるのではなく、限界を守った上で、いちばん良い動きを選ぶ。だから、急な曲がりや、狭い通過を、なめらかに、無理なくこなせます。代価は、計算の重さです。毎ステップ、先を予測して最適化するので、素朴なフィードバックより、ずっと多くの計算が要る。その重い計算を、毎秒何百回という速さで回しきれるか。ここが、モデル予測制御を実際に載せられるかどうかの分かれ目になります。この制御は、第5回で触れた、頭の中で世界を回してみる世界モデルの、行動の側の親戚にあたります。

自律で「行って撮る」の全体像

運動計画と制御は、単独では動きません。自律で「行って撮る」を成り立たせるには、これまでの回で見てきた技術が、一本の流れにつながります。

まず、感知です。第2回のセンサで、まわりの様子を捉える。次に、地図と自己位置。第3回の三次元再構成や、第5回でも触れたSLAMで、どこに何があるかの地図を作り、その中で自分がどこにいるかを知る。地図と位置が分かって初めて、第3節で見た運動計画が、目的地までの安全な道を引ける。引いた道を、制御が、現実のずれを直しながら実行する。そして、目的の場所に着いたら、また感知に戻り、撮る。

この、感知、地図と位置、計画、制御、実行という輪が、途切れなく回ることで、自律の巡検が成り立ちます。ドローンなら、橋桁の下をくぐりながら撮り、地上のロボットなら、床版の上を這いながら撮る。動きながら、地図を更新し、次にどこを撮るべきかを決め、そこへ向かう。第1回で描いた認識から行動までの環が、ここでは、物理的に動く一台のロボットの中で、実際に回っているわけです。ただし、この輪のどこか一つでも遅れたり外したりすると、ロボットは道を見失い、あるいはぶつかる。自律とは、この輪の全部が、そろって回り続けることです。

運び方は「運動性能」に現れる

ここで、第2回で触れた話に、戻ってきます。センサは運び方ではなく、何を測るかで選ぶ。国の性能カタログは、技術を計測の原理で分類し、ドローンやロボットという運び方は、分類の軸に置いていませんでした。では、運び方はどこに現れるか。標準項目の「運動性能」という諸元の中です。

その運動性能は、四つの項目からできています。一つ目が、構造物に近接した状態での安定性能。これは飛行型だけに問われるもので、たとえば瞬間風速三メートル毎秒未満の自然の風といった外乱の下で、位置がどれだけ動くかを、センチ単位で見ます。二つ目が、進入できるかどうか。三つ目が、動ける範囲。四つ目が、移動しながら測るときの、位置の精度です。ここで初めて、飛行型、接触型、アーム型、懸架型という運び方の型が、諸元として現れる。国は、運び方を分類ではなく、性能として問うているのです。今回学んだ運動計画と制御が目指すもの、狙った場所へ、外乱に負けず、正確に、なめらかに動く、という性能が、この四項目に、そのまま対応しています。

制度は、飛ばし方にも枠を定めています。無人航空機は、人や物件から三十メートル未満で飛ばすには承認が要る、といった決まりがある。橋に近づいて撮る以上、この三十メートルの要件には触れることになります。飛行のカテゴリーも、第三者の上空を飛ぶかどうか、立ち入りを制限するかどうかで分かれ、インフラ点検のための標準的な飛行マニュアルも整えられている。運動計画がどれだけ賢くても、飛ばしてよい空域と方法の枠の中で、動くことになります。

そして、この段階には、はっきりした限界があります。今回の主題は「行って撮る」の自動化でした。しかし第1回、第2回でくり返し見たとおり、点検の手間の本体は、撮影そのものではなく、撮る前の計画と、撮った後の照合や記録に広がっています。取得を完全に自律化しても、その後の工程が手作業のままなら、全体の削減には、早い天井が来る。ロボットが自律で行って撮れるようになることは、大きな前進です。しかしそれは、環の一つの弧が回り始めた、ということであって、環の全部が回るには、まだ足りない。行動の自動化は、覚え、判断し、記録につなぐ、他の弧とそろって、初めて効いてきます。

RRTが経路を見つける過程。スタートSからゴールGへ、乱択で点を選んで木を伸ばし(a→b)、障害物を避けて最終経路(赤)を得る(c)

MPC(モデル予測制御)の枠組み。予測モデル→ローリング最適化→制御対象→フィードバック補正を回す

おわりに

運動計画とは、ロボットの取りうる姿勢の空間のなかで、衝突しない道を探すことです。乱択で木を伸ばすサンプリング系(RRT)と、なめらかな軌道を評価関数で解く最適化系があり、二段構えでも使う。その計画した軌道を、制御が、毎秒数百回から千回のフィードバックで、外乱を直しながら追う。先を読んで次の一手を決めるモデル予測制御も、ここに加わります。

自律で「行って撮る」とは、感知、地図と自己位置、計画、制御、実行という輪が、途切れず回りつづけることです。運び方は運動性能という諸元で問われ、飛ばし方には三十メートルの要件という制度の枠がある。ただし、取得を自律化しても、後工程が手作業のままなら、効き目には早い天井が来ます。動かす技術は、束ねられて、はじめて効くのです。

次回は、行動のもう一段先、画像と指示から直接ロボットの動作を出すVLAと、実際の作業をこなす操作を扱います。研究と実演の最前線が、点検・保全のどこに、いつ効いてくるのかを見定めます。


本記事は「Physical AI 点検・保全 講座」シリーズの第7回です。次回は、VLAと操作を扱います。スライド資料(PDF)は無料でダウンロードいただけます。

出典

  • 出典:Tang, Zakaria & Younas, "Path Planning Trends for Autonomous Mobile Robot Navigation: A Review", Sensors 25(4):1206 (2025) Fig.9. CC BY 4.0
  • RRTの探索木の実例図:Tang, Y.; Zakaria, M.A.; Younas, M. "Path Planning Trends for Autonomous Mobile Robot Navigation: A Review." Sensors 25(4):1206 (2025) Fig.5. CC BY 4.0
  • 国土交通省 道路局「橋梁・トンネル 点検支援技術 性能カタログ」標準項目(運動性能の4項目・飛行型/接触型/アーム型/懸架型)
  • 国土交通省 航空局「無人航空機の飛行許可・承認手続」「標準マニュアル②(インフラ点検)」(30mの要件・飛行のカテゴリー)
  • 運動計画(RRT/PRM・軌道最適化)、制御(フィードバック・model-based control・モデル予測制御)、SLAMは、ロボティクス/最適制御の一般的手法に基づく(特定製品の性能値は含まない)
  • 本講座 第1回(認識から行動の環・Helixの制御周波数)、第2回(運び方ではなく計測原理・工数の本体は撮影の前後)、第3回・第5回(SLAM・地図と自己位置)

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