運用編 —— 人とロボットの運用設計

運用編 —— 人とロボットの運用設計

ロボット導入の議論は、しばしば「完全自動になったら」という条件つきで語られます。完全自動になったら人手が減る、完全自動になったら投資が回収できる。しかし、完全自動を待ってから運用を始める現場は、いつまでも始まりません。実際に回っている現場は、逆の順序で作られています。人の介入を最初から設計に組み込み、そのうえで介入の頻度を下げていく。運用設計とは、完全自動の実現を待つことではなく、人とロボットの分業を設計することです。今回は、稼働開始後の運用を、人の介入を前提としたエンジニアリングとして扱います。

コンビニ300店で、起きていること

抽象論の前に、実際に回っている現場を見ます。ファミリーマートは、Telexistenceのロボットを店舗に導入し、飲料の陳列を任せています。ファミリーマートのプレスによれば、このロボットは一日あたり最大1,000本行われる飲料陳列業務を、店舗従業員に代わって担います。そして、AIによる陳列が失敗したときには、人がVRで遠隔操作して引き継ぎます。

ここで注目すべきは、介入の頻度です。NVIDIAの公式ブログはTelexistenceの調べとして、一日に1,000本以上の飲み物を補充するなかで、人の手動介入が必要になるのは、そのうち20回未満という計算になる、と伝えています。1,000本のうち20回未満。ほとんどはロボットが自力でこなし、たまに人が助ける。この「たまに人が助ける」を最初から設計に組み込んだ運用が、2021年から回り続けています。

この運用の勘所は、人が入ったときに何が保証されるかにあります。ファミリーマートのプレスによれば、想定外の環境変化でAIの陳列が失敗した場合、ロボットは自動制御モードから遠隔操作モードへ移り、人がインターネット越しにロボットを直接制御して、陳列業務を100パーセント成立させます。自動でやり切れなかった残りを、人の遠隔操作が最後まで詰める。しかも、AIシステムのGordonは店舗の過去の販売実績を学習し、時間帯や季節で動く売れ筋に合わせて陳列のタイミングを調整します。自動の担当範囲を広げる仕組みと、こぼれた分を人が拾う仕組みを、同じ運用の中に並べて置いている。完全自動ではありません。しかし、動いています。完全自動でないことは、運用が始められない理由になりません。むしろ、人の介入をどう設計するかが、運用の本体です。

介入率という、運用のKPI

ここから、運用を測る指標を入れ替えます。完全自動率ではなく、介入率で測る。介入率とは、ロボットが自力でやり切れず、人が手を出した割合です。式にすれば、人が介入した回数を総試行回数で割った値です。Telexistenceの例なら、1,000本に対して20回未満、つまり介入率は2パーセントを下回ります。残りの98パーセント超は、ロボットが自力で置ききります。Plus One Roboticsは、一人の担当者が最大50台のロボットを遠隔で監督し、判定に迷えば数秒(報道では約6秒)で介入する体制を、2021年時点で示しています。Plus Oneはこの体制を、Yonderという遠隔監督ソフトで実装しています。同社が示す形は、訓練された遠隔監督者(同社はCrew Chiefと呼びます)が24時間待機し、自動システムが詰まったところへ数秒単位で入って例外を片付ける、という設計です。

なぜ介入率が指標として効くのか。それが、運用の経済を直接決めるからです。一人の担当者が何台のロボットを見られるか。この台数が、人件費の分母になります。ここを算術で押さえます。一人の操作員が一時間に処理できる介入の回数をC、一台のロボットが一時間に生む介入の回数をrとおくと、一人が見られる台数の上限は C を r で割った値になります。介入率が半分に下がればrが半分になり、この上限は倍になります。同じ人数で倍の台数を見られる、あるいは同じ台数を半分の人数で見られる。介入率という一つの連続量が、そのまま監督台数と人件費に効いてきます。

具体で見ます。一人で50台を見られるなら、一台あたりの人件費は50分の1です。この50分の1が成り立つのは、50台が生む介入を一人が捌ききれる範囲に、介入の頻度と一回あたりの時間が収まっているからです。介入が一回数秒で済み、かつ50台が同時に助けを求める確率が低ければ、一人で回せます。逆に、介入が一回数分かかったり、複数の機体が一斉に止まったりすれば、一人が見られる台数は一気に減ります。運用の経済は、介入率の平均だけでなく、介入の重さ(一回あたりの時間)と同時性(何台が一度に止まるか)の三つで決まります。Plus OneのYonderが待ち行列の管理(同社の言うSmart Queue Management)を備えているのは、この同時性を一人の操作員に順序立てて割り振り、一人を台数の乗数として効かせるためです。

完全自動率を99パーセントから99.9パーセントへ上げることに意味があるのは、それが介入率を1パーセントから0.1パーセントへ下げ、rを十分の一にし、一人あたりの監督台数を一桁増やすからです。運用の損益は、完全自動という到達点ではなく、介入率という連続量で動きます。

では、介入率はどう下げるのか。ここで、この講座の環が閉じます。介入が起きるのは、ロボットが自力で処理できない状況です。それを減らすには、第7回で見た適配のループを回してより多くの状況に対応させ、第8回で見た振り分けの判定精度を上げて処理範囲を広げる。介入率を下げる作業は、適配と視覚の工程へ戻っていきます。運用は下流の終点ではなく、上流の適配と視覚へデータを送り返す環の一部です。

遠隔監視の、体制設計

介入を前提にするなら、その介入をどう回すかの体制が要ります。設計項目は三つです。エスカレーションの階梯、引き継ぎの粒度、そして冗長化です。

エスカレーションの階梯とは、問題が起きたときに誰から誰へ上げるかの順序です。まず現場の係員が対応し、手に負えなければ遠隔の操作員が引き継ぎ、それでも解けなければ技術者が入る。この階梯を決めておかないと、小さな不具合に技術者が呼ばれ、大きな障害が放置されます。引き継ぎの粒度とは、どの状態からロボットを人が持ち、どこでロボットに返すかです。ロボットが完全に止まってから人が入るのか、迷った時点で人が入るのか。返すときも、人がすべて片付けてから返すのか、途中から自動に戻すのか。この境界の設計が、介入一回あたりの時間を決めます。前節で見た介入の重さは、この粒度で決まります。Telexistenceの遠隔操作モードは、人が入れば陳列を100パーセント成立させる設計で、失敗を人が最後まで詰める側に境界を引いています。Plus OneのCrew Chiefは、自動システムが詰まった箇所へ数秒単位で入って例外だけを解き、すぐ自動へ返す側に境界を引いています。どちらが正しいということではなく、対象と機体に合わせてこの境界を明示的に決めることが、体制設計の中身です。冗長化とは、シフトと通信の二重化です。遠隔監視は、監視する人と通信回線が落ちれば止まります。24時間の体制を掲げるなら、その裏でシフトの穴と回線の切れ目をどう埋めるかまでを、あらかじめ決めておきます。

日本にも、この遠隔運用をサービスとして提供する事業者が現れました。川崎重工とソニーグループが2021年に設立した合弁のリモートロボティクスは、Remolinkというクラウドサービスを提供しています。同社によれば、Remolinkはロボットや設備の遠隔操作業務を行うためのクラウドサービスで、メンバー管理や業務のアサイン、稼働計画といった機能を持ちます。遠隔でのエラー復旧や操作を、個々の企業が自前で組むのではなく、サービスとして使える形が整い始めています。

ただし、体制設計には見落とされがちな一項目があります。操作員の育成です。遠隔操作員を養成する対外的な課程や共通資格は、調べた範囲では見当たりませんでした。各社が社内で訓練しているのが実態です。操作そのものの敷居は、必ずしも高くありません。Plus OneはYonderを、モバイルでもデスクトップでも触れて操作でき、訓練と支援を最小限に抑える設計だと説明しています。操作の敷居が低いことと、体制として育成が要らないことは、別の話です。誰を何人、どの階梯に、どの熟練度で置くかは、各社が自前で組み立てるしかありません。だから、運用体制の設計には、誰がどう操作員を育てるかの計画を、最初から含める必要があります。人の介入を前提にする以上、その人をどう用意するかまでが設計です。

保守の設計

運用には、もう一つの柱があります。保守です。保守は二本柱で組みます。予防保守と、故障対応です。

予防保守は、壊れる前に手を打つ設計です。点検の周期、消耗部品の交換、ファームウェアの更新。連続稼働に限りのある機体を長時間の現場で回すなら、バッテリーの劣化と交換を計画に織り込みます。ここは機体側の設計で吸収されつつある部分でもあります。たとえばGA Roboticsが扱うWalker S2は、直立で8時間、連続運動で3時間という稼働時間を持ち、デュアルバッテリーの切替と、稼働計画に応じて自律的に交換や充電を選ぶ設計を備えます。機体がバッテリー管理を自分で回すぶん、予防保守の手数は減ります。それでも劣化そのものは避けられないので、交換の周期と在庫は計画に残ります。故障対応は、壊れたあとの設計です。現場でまず一次切り分けをし、手に負えなければメーカーへエスカレーションし、必要ならオンサイトで技術者が来る。この流れと、それぞれの所要時間を、あらかじめ契約に落とします。

保守は、いまや代理店の商品になっています。たとえばWalkerシリーズを扱うGA Roboticsは、365日対応の保守・運用体制を公式に掲げ、専用のコールセンターを設け、全国でのオンサイト修理に対応し、関東圏では6時間以内の対応が可能だと記載しています。海外製の機体を日本で使うとき、メーカーが遠い分、国内の代理店がどこまでの保守体制を持つかが、稼働率を左右します。6時間という数字が示すのは、機体が止まってから復旧するまでの空白時間であり、その空白がそのまま稼働率の目減りになります。保守契約を結ぶときに確認すべき項目、対応時間、代替機の有無、部品在庫、保証期間、ファーム更新の責任分界を、表にして詰めておきます。機体の性能ではなく、機体が止まったときに誰が何時間で直すかが、運用の現実を決めます。

複数台運用というエンジニアリング

一台の運用と、十台の運用は、別の仕事です。一台なら、担当者が目を配れば足ります。十台になると、どの機体がいま動いていてどれが止まっているかの稼働管理、充電をどう回すかのスケジューリング、ソフトウェア更新をどの順で当てるかの段階展開、そして機体ごとの個体差の管理が、まとめて必要になります。同じ型でも、機体ごとに癖があり、置かれた現場も違います。充電のスケジューリングは、稼働時間の壁と直結します。連続運動が数時間で切れる機体を複数台回すなら、全機が一斉に充電へ入って現場が止まる事態を避けるため、機体ごとに稼働と充電の時間をずらして組む必要があります。ソフト更新も同じで、全台へ一度に当てて全滅する事故を避けるため、数台ずつ当てて様子を見る段階展開が要ります。

複数台を回すには、束ねて見る指標も要ります。Plus OneはYonderのダッシュボードで、全体のOEE(設備総合効率)や、人が現場へ歩いて戻る停止時間(walk-back time)を計測し報告する、と説明しています。台数が増えるほど、一台ごとの感覚では全体が見えなくなり、稼働率や停止時間を機隊の単位で測る仕組みが要ります。

この複数台運用を、fleet ops(フリートオペレーション)と呼びます。そして近年、これを一つの職能として名づける動きが出ています。RobOps(Robot Operations)という方法論です。ソフトウェアの運用がDevOpsとして職能になったように、ロボットの運用も、稼働管理と更新と保守を束ねる専門の仕事として認識され始めました。InOrbitのような事業者が、この方法論を提唱しています。運用が、片手間の見守りから、名前を持つエンジニアリングへ変わりつつあります。

運用データを、資産に変える

最後に、運用が生み出すものについて。運用の副産物として、介入ログが溜まります。いつ、どこで、どの対象で、ロボットが自力でやり切れず人が入ったか。この記録は、どこで失敗するかの実測です。研究室では作れない、この現場の失敗の地図です。

この介入ログは、最良の教師データになります。失敗した状況を集めて適配に還せば、次はその状況に対応できるかもしれない。第7回の適配ループに、運用の失敗が流れ込む。これが、運用を回すほどロボットが賢くなる、という話の実体です。

ただし、ここで正直に線を引きます。介入ログを適配に還すことで認識や方策の精度が上がる、というループは、実測の事例があります。しかし、それによって導入のコスト自体が下がる、という主張は、業界でまだ立証されていません。データが溜まれば部署コストが下がり続ける、という「データフライホイール」の物語は、魅力的ですが、現時点では証明された事実ではありません。精度が上がることと、導入や運用の総コストが下がることは、別の話です。運用データは資産になりえますが、それが自動的にコストを下げるとまでは、言えません。投資判断は、この期待値を正しく設定したうえで行う必要があります。誇張された飛輪に賭けるのではなく、精度改善という確かめられた効果を土台に、コスト低減は仮説として検証しながら進める。それが、誠実な運用設計です。

おわりに

完全自動を待つ現場は、いつまでも始まりません。ファミリーマートの300店は、1,000本に20回未満という介入率で、2021年から回り続けています。運用を測るのは完全自動率ではなく介入率で、それが一人あたりの監督台数を、つまり運用の経済を決めます。介入率を下げる作業は、適配と視覚の工程へ戻る環になります。遠隔監視は、エスカレーションの階梯と引き継ぎの粒度と冗長化で組み、操作員の育成計画まで含める。保守は予防と故障対応の二本柱で、いまや代理店の商品です。複数台運用はfleet opsという別の仕事で、RobOpsという職能が立ち上がりつつある。そして運用データは資産になりえますが、コスト低減は未立証の仮説として、誠実に扱います。

運用とは、完全自動が来るのを待つ時間ではありません。人とロボットの分業を設計し、介入率を下げていくエンジニアリングです。

次回は最終回、第10回、経済編とこれからです。ここまでの8工程を、費用構造とROIの誠実な計算にまとめ、日本の補助金地図を描き、そして「部署エンジニア」という職業そのものを扱います。この講座の締めくくりです。


本記事は「Physical AI 導入実務講座」シリーズの第9回です。次回は最終回、経済編とこれからを扱います。スライド資料(PDF)は無料でダウンロードいただけます。

出典

  • ファミリーマート × Telexistence プレスリリース ※「1日あたり最大1,000本行われている飲料陳列業務を、店舗従業員に代わり24時間担う」/AI陳列が失敗した場合は人がVR(遠隔操作モード)で制御し「陳列業務を100%成立させることが可能」/AIシステムGordonは過去の販売実績を学習し陳列タイミングを最適化
  • NVIDIA 公式ブログ(2022-08-10、Telexistenceの調べとして)※「1日に1,000本以上…手動のオペレーターによる介入が必要とされるのは、そのうち20回未満という計算」
  • Plus One Robotics ※一人で最大50台を遠隔管理/介入は数秒(報道では約6秒)(2021年時点、GlobeNewswire 2021-04-27・Human-in-the-Loop公式頁)/Yonder公式頁:訓練された遠隔監督者「Crew Chief」が24/7で例外を数秒(within seconds)で解決・Smart Queue Management・ダッシュボードでOEEやwalk-back time(停止時間)を計測報告・モバイル/デスクトップで最小限の訓練で操作可
  • リモートロボティクス Remolink 公式頁/ソニー設立プレス(2021-12・川崎重工×ソニーグループ合弁)※「ロボットや設備の遠隔操作業務を行うためのクラウドサービス」・メンバー管理/業務アサイン/稼働計画
  • 遠隔操作員の育成 ※対外課程・共通資格は調査範囲では見当たらず、各社内訓が実態(ロボット導入 職業教育調査)
  • GA Robotics(Walker取扱)※365日対応の保守・運用体制(公式記載・事実のみ)/製品頁記載:専用コールセンター・全国オンサイト修理対応・関東圏6時間以内対応・保証期間1年/Walker S2 は直立8時間・連続運動3時間の稼働時間とデュアルバッテリー自律交換設計
  • RobOps/Robot Operations Group(InOrbit 提唱)※運用を職能として体系化する方法論
  • ※「運用データで部署コスト自体が下がる(データフライホイール)」は業界で未立証。精度改善のループは実測事例があるが、コスト低減は仮説として検証しながら扱う(本講座の誠実基準)

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