統合編 —— つなぐ:周辺設備・上位システム・安全回路

統合編 —— つなぐ:周辺設備・上位システム・安全回路

単体のデモでは滑らかに動くロボットが、現場に入れると止まる。理由の多くは、性能ではありません。つなぐことが設計されていないからです。ロボットは、それ単体で仕事をするのではなく、工程の中の一つの箱として、前後の設備や情報システムとつながって初めて仕事になります。前回、現場を測る工程を扱いました。今回は、測った現場の既存設備とロボットを「つなぐ」工程と、そして導入の成否を最終的に分ける「検収設計」を扱います。導入を検収する側、つまり機体を受け取って現場で回す部署の視点から、つなぐことと合格を定義することを組み立てます。

ロボットは、既存インフラの中に置かれる

空港の手荷物を例にとります。ロボットが手荷物を積むとき、その手荷物は空から降ってくるわけではありません。手荷物搬送システム、BHS(Baggage Handling System)という巨大な既存インフラの上を流れてきます。国内では、このBHSをトーヨーカネツ一社が、同社資料によれば国内131空港、国内全空港の約90パーセントに納入しています。最初の納入は1973年の成田で、以来半世紀のあいだに積み上がったインフラです。

つまり、ロボットが置かれるのは、すでに完成し、稼働している大きなシステムの中です。爆発物検査を組み込んだインラインスクリーニング、複数のレベルに分かれた仕分け、チェックインカウンタからメインソータへの搬送。この動いているインフラのどこに、どうロボットを差し込むのか。既存システムを理解することが、統合の前提になります。

空港BHSのインラインスクリーニングシステムの系統。チェックインからメインソータへ、複数のレベルに分かれて手荷物が流れる既存インフラ。ロボットはこの動いているシステムの中に差し込まれる(出典:トーヨーカネツ・国土交通省資料)

この既存インフラは、ロボットが来るずっと前から、扱う対象の癖にあわせて作り込まれています。手荷物にはソフトバッグも、お土産の入った紙袋も、紐やタグの垂れたものも混ざります。BHSはこの荷姿の多様性を前提に、引っ掛かりを避ける専用コンベヤや、衝撃を与えずに振り分ける仕分け装置として組まれてきました。個々の手荷物はIATAのバーコードタグで追跡され、爆発物検査の結果とつき合わせて仕分けられます。検収する部署から見れば、突き合わせる相手は、ロボット単体の性能表ではありません。この既存インフラが積み上げてきた荷姿の制約、タグの規格、仕分けの精度要求です。ロボットは、その制約をそのまま引き継いだうえで動かなければなりません。

単体のデモは、この文脈を持ちません。何もない床の上で、用意された対象物を、決まった手順で扱う。だからデモは動きます。現場で止まるのは、デモと現場のあいだに、この既存インフラとの接続がまるごと横たわっているからです。

つなぐ三層

つなぐ、という工程を三つの層に分けます。物理層、情報層、運用層です。

物理層は、モノとモノをつなぐ層です。ロボットと搬送設備の位置合わせ、治具の設計、そして安全回路と非常停止の系統です。ここでとくに重いのが、非常停止をどの系統につなぐかです。安全回路は、非常停止スイッチや安全柵の安全プラグを、安全リレーや安全PLCでひとつにまとめた回路として組まれます。ロボットの非常停止ボタンが、ロボットだけを止めるのか、つながった搬送設備のコンベヤまで止めるのか。人が危険を感じて叩いたボタンが、機体は止めても隣のコンベヤを止めなければ、危険は残ります。物理層は、安全回路をどこまで一つにするか、その回路のどこまでが供給側の責任で、どこからが現場側の責任かという責任分界を、リスクアセスメントの結果とあわせて決める設計です。

情報層は、信号と情報をつなぐ層です。上位システム、WMS(倉庫管理)やMES(製造実行)、BHSとのインターフェース、PLC(制御装置)との信号のやりとり、そしてタクトの同期です。ここで見落とされがちなのが、例外コードの設計です。すべてが順調なときの信号は、誰でも設計します。難しいのは、ロボットが対象を掴み損ねたとき、タグが読めなかったとき、対象が規格外の荷姿だったとき、上位システムが応答しないときに、どんな信号を、どちらへ、どう返すか。順調な信号が一種類でも、例外は何種類もあります。その一つ一つに、止めるのか、退避させるのか、人を呼ぶのかを割り当てておく。タクトの同期も同じです。BHSのように止まらずに流れ続けるインフラにつなぐなら、機体の周期を止めて待たせるのではなく、流量の側に合わせられるか、合わせられないときにどう間引くかまで決めておく。例外の信号設計とタクトの設計が、現場での立ち往生を防ぎます。

運用層は、人と機体の役割をつなぐ層です。例外が起きたとき、人がどう入り、どう引き継ぐか。情報層で設計した例外コードが鳴ったとき、それを受けて人が動く手順が運用層です。この層の詳細は第9回の運用編で扱いますが、統合の段階で、人が入る口を設計に残しておく必要があります。三層のそれぞれに設計項目があり、どれか一つの層が抜けると、つないだつもりでつながっていない状態になります。

立ち上げの工程

つなぐ設計ができたら、実際に立ち上げます。立ち上げ(コミッショニング)には、確立した段階があります。

まず工場受入試験、FAT(Factory Acceptance Test)です。機体とシステムを、供給側の工場で、あらかじめ合意した条件で試験します。検証というのは、要求どおりの品質が作り込まれたことを、検査、実地試験、測定、運転中の観察、回路図やソフトウェアの精査といった手段で確かめる行為です。ここで基本的な動作と安全を確認してから現場へ運びます。次に現地受入試験、SAT(Site Acceptance Test)です。搬入した現場で、実際の設備とつないだ状態で試験します。この受入検査で外せないのが、責任分界点を先に文書で決めておくことです。どこまでが供給側の合格判定で、どこからが現場側の判定か。不適合が出たとき、その状況を確認する責任者と、返却か再加工か修理かを判断する人と、処置を記録する人を、あらかじめルール化しておく。ここが曖昧だと、問題が起きた瞬間に、切り分けの前に責任の押し付け合いが始まります。

段階を踏むことには、明確な意味があります。切り分けです。一度にすべてをつないで動かすと、問題が起きたときに、原因がロボットなのか、搬送設備なのか、情報システムなのか、切り分けられません。まず機体を単体で動かして物理層を確認し、次に上位システムと信号だけをつないで情報層を確認し、それから少数の実対象を流し、問題が出ないことを見てから本数を増やしていく。層を一つずつ足していくから、不具合が出た瞬間に、どの層を足したときに出たかで原因の層が分かります。段階を分けておくと、問題が起きた層をすぐ特定できます。立ち上げ期間の見積もりは、この段階の数と、各段階で起こりうる手戻りを織り込んで立てます。一足飛びの立ち上げは、速いようで、切り分け不能という高い代償を払います。

成功基準を、先に決める

そして、統合工程でもっとも飛ばされるのが、検収設計です。何をもって「導入成功」とするかを、納品の前に、できれば契約の前に決めておく。ここを曖昧にしたまま始めたプロジェクトは、終わらせ方も曖昧になります。

この検収設計を、具体的な言葉で示した一次資料があります。プラントへのAI導入をまとめた政府の事例集(石油コンビナート等災害防止3省連絡会議、経済産業省・厚生労働省・消防庁)です。ロボットの検収に、そのまま翻訳できます。

出光興産の事例は、成功基準を三つの判断に分けて示しました。第一に、比較対象の設定です。目指す水準を「専門担当者には若干劣るがノウハウのない人員より優れる水準」と言葉にしました。何と比べて合格とするかを、先に決めています。第二に、下限の数値化です。合格ラインを「80パーセント」と数値で置きました。第三に、そしてここがもっとも示唆的ですが、誤りの方向の指定です。この80パーセントという数字は、単なる正解率ではありません。残る20パーセントの中身を、腐食レベルを実際より大きく出力する誤判定と判定不能の合計と定義し、そのうえで「腐食レベルを小さく出力する誤判定は限りなくゼロ」を求め、実績としてゼロを達成しています。同じ80パーセントでも、どちらの方向に間違えてよいかを指定している。安全側に外すのは許すが、危険側に外すのは許さない。

JSRの事例は、この誤りの方向を運用に落としました。疑わしい場合は「腐食あり」と判定し、現場で腐食なしと確認されることは許容する。見落としをゼロに寄せるために、空振りを許容する。検知の非対称を、運用の設計として引き受けています。日揮の事例は、順序を示しました。解析対象、データの質と量、解析の方針、最終アウトプットの四点を合意した結果、「事業規模も決定できた」と述べています。合格の定義を先に固めたから、案件の規模とコストが決まった。定義が先で、規模が後です。

ロボットの検収も、同じ構造です。人と比べて何割を任せるのか(比較対象と下限)、掴み損ねと誤搭載のどちらをより避けるのか(誤りの方向)、疑わしい対象は掴むのか人へ回すのか(運用の非対称)。これらを、機体が届く前に決めておく。検収する部署が最初に作るべき文書は、機体の仕様書ではなく、この合格の定義を書いた一枚です。

2ステップの原則

最後に、この事例集が明文で示した原則を引きます。「AI導入は、①業務フローのデジタル化、②要所でのAIソリューション導入、の2ステップで実施すると成功確率が高まる」。

これはロボット導入にそのまま当てはまります。①が、前回扱った現場評価と、今回の三層接続にあたります。工程が測られ、デジタルにつながっていない現場に、②のロボットだけを差し込んでも、成否を測る土台がありません。工程が測れていなければ、ロボットが工程を改善したかどうかも測れない。①を飛ばして②から始めたプロジェクトが、「入れてはみたが効果が分からない」に落ちるのは、この順序を逆にしたからです。

つなぐことと、合格を定義すること。この二つは、納品のはるか前、案件の設計段階の仕事です。導入の成否は、機体が届くよりずっと早く、ここで決まっています。

おわりに

ロボットは工程の中の一つの箱にすぎません。BHSのような既存インフラの中に置かれ、その荷姿やタグの制約を引き継いだうえで、物理・情報・運用の三層でつながって初めて仕事になります。立ち上げはFATからSATへ段階を踏み、責任分界を先に決めて、問題を切り分け可能にする。そして最後に残るのが検収設計です。出光の三判断、JSRの運用、日揮の四点合意が示すように、何をもって合格とするかを先に決める。比較対象と下限と誤りの方向を、機体が届く前に言葉と数値にする。2ステップの原則が言うとおり、工程をつないでデジタル化してから、ロボットを差し込む。

統合とは、機体を設置する作業ではありません。箱を工程につなぐ配線と、合格の定義を、納品の前に設計する工程です。

次回は第7回、適配編です。つないだロボットに、この現場の作業をどう教えるか。逐次の教示から、遠隔操作によるデータ収集、モデルの微調整とsim-to-realまで、「教える」がデータに変わった工程を、厂商のツールチェーンとともに掘り下げます。


本記事は「Physical AI 導入実務講座」シリーズの第6回です。次回は適配編を扱います。スライド資料(PDF)は無料でダウンロードいただけます。

出典

  • 国土交通省 トーヨーカネツ BHS資料 ※「国内131空港(国内全空港の約90%)」(同社資料)/1973年成田納入以降の歴史/IATAバーコードタグによる追跡・インラインスクリーニング/インラインスクリーニングシステムの系統図
  • プラントにおける先進的なAI導入事例集(石油コンビナート等災害防止3省連絡会議=経済産業省・厚生労働省・消防庁、2020年11月)
    • 出光興産(NO.8)※「専門担当者には若干劣るがノウハウのない人員より優れる水準」「80%=実際より大きく出力する誤判定+判定不能の合計20%、実際より小さく出力する誤判定は限りなくゼロ(実績としてゼロ)」
    • JSR(NO.9)※「疑わしい場合は『腐食あり』と判定することで見落としを回避する。…現場で腐食なしと確認されることは許容している」
    • 日揮(NO.3)※解析対象・データ質量・解析方針・最終アウトプットの合意により「事業規模も決定できた」
    • 2ステップ原則 ※「AI導入は、①業務フローのデジタル化、②要所でのAIソリューション導入、の2ステップで実施すると成功確率が高まる」
  • FAT/SAT・三層接続・安全回路・受入検査の責任分界の工程定義:経済産業省「ロボットシステムインテグレータのスキル読本」該当章/ロボットSI検定テキスト

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