はじめに一つ、はっきりさせておきます。この記事は法律の一般的な解説であって、個別の案件に対する法的助言ではありません。条文番号も所管官庁も実務の窓口まで書きますが、実際の輸入や契約にあたっては、必ず通関業者、弁護士、各官庁に確認してください。そのうえで、導入担当者が全体像を持つための地図として読んでください。
前回、機体を選ぶ工程を扱いました。仮にUnitree G1やWalker Eのような海外製ヒューマノイドを選んだとします。次に立ちはだかるのは、性能でも安全でもありません。書類です。ロボットは、税関で止まります。
「ロボット法」という単一の法律は、存在しない
多くの人が、ロボット導入には「ロボットに関する法律」があると思っています。ありません。存在するのは、輸入、電気、電波、製造物責任という、ロボットが生まれる前からある四つの古い法体系です。そして海外製の動く機械は、この四つすべてに同時にかかります。
だから導入担当者に必要なのは、法律の専門知識ではありません。四つの関門を、順番に、抜けなく通す手順です。一つでも抜けると、機体は現場に立てないか、立ったあとで責任の空白に落ちます。この記事は、その四つの関門を通関図として順に通していきます。
第一の関門 輸入と関税
海外から機体を運び込むと、まず税関を通ります。ここで最初の誤解を正しておきます。「外国法人は日本の輸入者になれない」という説明を見かけますが、これは誤りです。外国法人も輸入申告者になり得ます。
ただし条件があります。関税法第95条第1項は、本邦に本店も主たる事務所も、事務所も事業所も持たない者が税関関係の手続きその他の事項を処理する必要があるときは、その処理をさせるため「税関事務管理人を定めなければならない」と定めます。続く第95条第2項が、税関事務管理人を定めたとき、または変更したときの税関長への届出義務を課します。選任を命じる根拠が第1項、届出を命じる根拠が第2項という二段構えです。手続きの細目は関税法施行令第84条・第85条、関税法施行規則第11条の2に置かれ、実務上の取扱いは関税法基本通達95-1・95-2・95-13が示します。日本に拠点のない外国メーカーが自分で輸入するなら、日本国内に税関事務管理人(ACP)を選任し、届け出る。法制度は、通関の場面で「日本側の当事者」を要求する構造になっています。この税関事務管理人の制度は、令和5年10月に対象手続きを広げる制度拡充が行われ、外国事業者が輸入に直接関与する場面が整理されました。
しかも、この税関事務管理人は、通関業者でない限り「業として」の通関代理はできません。通関業法第2条が通関業務を定義し、第3条が通関業を営むには財務大臣の許可を要すると定めているからです。税関事務管理人を選任しても、それだけで反復継続する通関を代理できるわけではありません。そのため実務では、税関事務管理人を立てたうえで、実際の通関手続きは許可を持つ通関業者に委託する併用の形をとります。
結果として、輸入者は現実には三つの類型に落ち着きます。第一に、日本法人が自社で輸入する。責任も情報も自社に集まりますが、輸入実務の体制が要ります。第二に、商社や販売代理店を経由する。輸入の実務を委ねられますが、マージンと情報の距離が生じます。第三に、外国メーカーが税関事務管理人と通関業者を組み合わせて輸入する。どれを選ぶかで、コストと責任とスピードの配分が変わります。この選択自体が、法規工程の最初の設計です。しかもこの選択は、後で見る製造物責任の位置まで決めます。ここで輸入者になった当事者が、製造物責任法の上で製造業者と同列に立つからです。関税の入口で誰を輸入者にするかが、事故のときに誰が賠償を負うかまで規定します。
第二の関門 電気(PSE)
次は電気です。ここで多くの人が勘違いします。ロボット本体はPSE(電気用品安全法)の電気用品ではありません。規制がかかるのは、同梱される電池と充電器です。
条文で確かめます。電気用品安全法第2条第1項第3号は、電気用品の一つに「蓄電池であつて、政令で定めるもの」を挙げ、どの蓄電池を対象とするかの指定を政令に委ねています。その政令が施行令であり、リチウムイオン蓄電池は電気用品安全法施行令の別表第二第12号に置かれています。ただし逐語で読むと但し書きがあります。「単電池一個当たりの体積エネルギー密度が四〇〇ワット時毎リットル以上のものに限り、自動車用……及び産業用機械器具用のものを除く」。二つの条件が同時にかかります。体積エネルギー密度が四〇〇ワット時毎リットル以上であること、そして用途が自動車用でも産業用機械器具用でもないこと。産業用機械器具に使われる電池は、この但し書きで指定から除外されます。消費者向けか産業向けかで、扱いが分岐する。ここが講義のポイントです。だから機体の選定段階で、同梱電池のスペック表から体積エネルギー密度の数値と用途区分を確かめておく必要があります。一方、ACアダプタや充電器は「直流電源装置」として別表第一第9号(四)に入り、こちらは別表第二の電池より規制の重い特定電気用品に分類されます。
手続きは、条文の連鎖として動きます。事業開始の日から30日以内に、第3条の届出を経済産業大臣へ出す。第8条第1項で技術上の基準に適合させ、第8条第2項で自主検査を行い、その検査記録を作成して保存する。ここで電池と充電器の道が分かれます。特定電気用品にあたる充電器(直流電源装置)は、第9条第1項により、出荷前に登録検査機関の適合性検査を受けなければなりません。特定以外の電池は、この第9条の適合性検査を経ずに次へ進みます。いずれも第10条でPSEマークを表示し、第27条第1項により、表示のない電気用品の販売と販売目的の陳列が禁止されます。届出から検査、表示、販売制限まで、条文が一本の線でつながっています。
近年よく話題になる「国内管理人」も、条文で位置を確かめておきます。令和7年、2025年12月25日施行の改正で、電気用品安全法に国内管理人の制度が実在化しました。ただし対象は限定されています。第3条第2号は、電気用品の輸入の事業を行う者のうち「外国にある者に限る」としてこれを特定輸入事業者と呼び、その者に国内管理人を選任させ、国内管理人の氏名または名称と住所の届出を求めます。国内管理人には、第8条第3項・第4項により、技術基準適合の確保や自主検査記録の保存といった義務を国内で履行させる役割が割り振られています。つまり国内管理人が要るのは、海外から日本の消費者へ直接販売する特定輸入事業者だけです。日本国内の輸入事業者は、従来どおり第3条の届出で足り、国内管理人は要りません。ここで、税関事務管理人(関税法)、国内管理人(電気用品安全法)、納税管理人(税法)を混同しないことが肝心です。三つは別の法律の別の制度で、選任を要する場面も置く相手も異なります。
第三の関門 電波(技適)
ロボットはたいてい、Wi-FiやBluetooth、無線リモコンで通信します。無線を出す機器は電波法にかかります。
電波を発する特定無線設備は、技術基準適合証明または工事設計認証を受け、技適マークを表示していれば、免許を受けずに使えます。技術基準適合証明は電波法第38条の2の2に定められ、登録証明機関が個々の無線設備ごとに証明します。工事設計認証は第38条の24に定められ、同じ設計で量産する型式ごとにまとめて認証します。海外モジュールを組み込んだ量産機なら、後者の工事設計認証で確認されているのが通例です。表示の根拠は第38条の7、免許不要の前提となる「適合表示無線設備」の位置づけは第4条ただし書にあります。技適の取得主体は外国メーカーでもよいのですが、実務は国内側が主導して確認するのが安全です。海外モジュールがどの認証を、どの型式で持つのかは、機体を選ぶ段階で確かめておきます。
実証実験には、抜け道が用意されています。電波法第4条の2第2項・第3項の特例です。総務大臣への届出だけで、届出日から180日以内に限り、その機器を適合表示無線設備とみなす。この180日という期間は、電波法施行規則第6条の3第2項に置かれています。対象はWi-Fiの2.4/5GHz帯やBluetooth 2.1以降といった小電力データ通信システムに限られ、その範囲は総務省告示第263号が指定します。届出者に国内住所がなければ、施行規則第51条の15第4項により、届出先は関東総合通信局長になります。同一の目的で同一の規格について繰り返す再届出は第4条の2第2項ただし書で認められず、虚偽の届出には第113条第1号の罰則がかかります。技適のない海外機で実証を回すなら、この180日の特例が現実的な選択肢です。ただし対象は指定された無線制式に限られ、それ以外は実験試験局の免許など別の道になります。180日を超えて実運用に移すなら、期間内に正規の技術基準適合証明または工事設計認証へ切り替える段取りを、実証の開始と同時に組んでおく必要があります。
第四の関門 責任(PL法と保険)
四つ目は、事故が起きたときに誰が賠償するかです。動く機械は、人にぶつかり、物を壊す可能性を常に持ちます。
製造物責任法(PL法)は、輸入者を製造業者と同列に扱います。第2条第3項第1号は、責任を負う「製造業者」を「当該製造物を業として製造、加工又は輸入した者」と定義します。輸入しただけで、製造したのと同じ責任の位置に立つ。第3条は、製造物の欠陥によって人の生命・身体・財産を侵害したときの賠償責任を定めます。この責任は、被害者が製造業者の過失を立証しなくても、製造物に欠陥があったことと、その欠陥から損害が生じたことを示せば成立する構造です。民法の一般不法行為が加害者の過失を要件にするのに対し、PL法第3条は欠陥の存在を軸に据えます。だから被害を受けた第三者は、海外のメーカーを相手に過失を争わなくても、輸入した者へ賠償を求められます。ここに、顧客が外国メーカーと直接契約せず、日本の輸入者やインテグレータを間に立てたがる構造的な理由があります。日本国内に、製造業者と同列の責任を負う当事者を置きたいからです。
だから保険が要ります。実務では、製造物の欠陥に備えるPL保険、施設の管理に備える施設賠償責任保険を組み合わせます。二つは守る場面が違います。PL保険は、引き渡した製造物の欠陥が原因で第三者に生じた対人・対物の損害と、その訴訟費用を対象とします。ただし製品自体の損壊やリコール費用は対象外である点に注意が要ります。施設賠償責任保険は、施設の構造上の欠陥や管理の不備、業務の遂行に伴って生じた事故を対象とし、現場に据えた機体の運用側で起きる事故を受けます。製品の欠陥はPL保険、現場での管理は施設賠償という形で、二つを重ねて空白を塞ぎます。近年は、ロボット専用の保険商品も登場しました。ugoは2024年12月、三井住友海上と組んで「安心補償パック」を用意し、操作ミスや設定の誤りによる第三者への障害などをカバーするサービスロボット専用の補償を商品化しています。ロボット導入が、保険の側からも一つの類型として認識され始めた例です。
四者の責任を、一枚の分界表に引く
四つの関門を通したら、最後に責任の分界を一枚の表にします。登場人物は四者です。メーカー、輸入者、インテグレータ、ユーザー。そして事故の場面も、製品そのものの欠陥、設置や統合の不良、操作の過誤、経年劣化と、性質が分かれます。
この四者と四場面をマトリクスにすると、どの事故を誰が第一次的に負うのかが見えます。製品欠陥はPL法によりメーカーと輸入者に、設置不良はインテグレータに、操作過誤はユーザーの運用体制に、経年劣化は保守契約の設計に落ちる。そして見落とせないのは、この分界の多くが契約で動かせることです。代理店契約やSIer契約の責任条項で、どの場面の責任をどこが引き受けるかを、事前に配分できます。実務では、一方が負った損害を他方が肩代わりする補償条項、責任の範囲や上限を切る免責条項、相手方にPL保険や施設賠償責任保険の付保を求める保険付保義務条項が、この配分の道具になります。ただし製造物責任法が定める第三者への責任そのものは、当事者どうしの契約で消せるわけではありません。契約が動かせるのは、被害者へ賠償した当事者が最終的に誰へ求償するかという内部の分担です。分界表を先に引き、契約で埋める。これが法規・責任工程の実務の着地点です。
法規は、機体を選んだあとの事務作業ではありません。誰が輸入者になり、誰が製造業者責任を負い、事故を誰が賠償するのか。この当事者の設計を、導入の初期に決めておく工程です。ここを曖昧にしたまま機体を運び込むと、現場に立ったあとで、責任の空白に落ちます。
四つの関門には、時間の順序もあります。輸入と関税は機体が動く前、税関で通ります。電気(PSE)は、事業開始から30日以内の届出という期限が条文に書かれているため、輸入体制を組む段階で走らせておく必要があります。電波(技適)は、正規の認証がなくても第4条の2の特例で180日の実証が回せるので、実証フェーズと本番導入で戦略が変わります。責任(PL・保険)は、事故が起きてからでは遅く、機体が現場に立つ前に契約と保険を発効させておく。輸入の前に責任設計を終え、輸入と同時にPSEの届出を走らせ、技適は実証なら特例・本番なら正規認証を確認する。この順序を最初に引くのが、法規工程の段取りです。
おわりに
「ロボット法」という単一の法律はありません。あるのは、輸入・電気・電波・責任という四つの古い法体系で、海外製の動く機械はそのすべてに同時にかかります。関税法第95条の税関事務管理人、電気用品安全法の別表と条文連鎖と特定輸入事業者の国内管理人、電波法第38条系の技適と第4条の2の180日特例、製造物責任法第2条第3項第1号の輸入者=製造業者。四つの関門を条文で通し、最後に四者の責任を一枚の分界表に引く。それが、この工程の全体です。
もう一度だけ申し添えます。ここに書いたのは地図であって、個別の助言ではありません。条文は改正され、運用は案件ごとに違います。実際の輸入と契約では、通関業者、弁護士、各官庁に必ず確認してください。
次回は第4回、安全編です。無事に輸入した機体を、人のいる現場で動かすとき、労働安全衛生法とISO 10218がかかります。柵で囲う産業用ロボットの安全体系が、人と空間を共有するヒューマノイドやAMRにそのまま当てはまらない灰色地帯を、条文とリスクアセスメントの手順まで降りて扱います。
本記事は「Physical AI 導入実務講座」シリーズの第3回です。本記事は一般的な解説であり、法的助言ではありません。次回は安全編を扱います。スライド資料(PDF)は無料でダウンロードいただけます。
出典
- 関税法 第95条(税関事務管理人)e-Gov 現行版/税関 カスタムスアンサー9601(根拠:関税法95条・施行令84/85条・施行規則11条の2・基本通達95-1/2/13・通関業法2/3条)/税関 令和5年10月制度拡充解説
- 通関業法 第2条・第3条(通関業の許可)
- 電気用品安全法 e-Gov/同施行令 別表第二第12号(リチウムイオン蓄電池・産業用機械器具用は除外)・別表第一第9号(四)(直流電源装置=特定電気用品)
- 電気用品安全法 第3条(30日以内の届出)・第8条(技術基準適合・自主検査)・第9条(特定=適合性検査)・第10条(表示)・第27条(表示なき販売制限)
- 電気用品安全法 2025年12月25日施行改正 第3条(特定輸入事業者=外国にある者・国内管理人)/経済産業省「海外事業者が製品安全4法の規制対象となりました」
- 電波法 e-Gov 第38条の2の2(技術基準適合証明)・第38条の7(表示)・第38条の24(工事設計認証)・第4条ただし書(適合表示無線設備)
- 電波法 第4条の2第2項・第3項(技適未取得機器の実験等特例・180日以内みなし)/施行規則6条の3第2項・51条の15第4項/総務省 特例制度頁
- 製造物責任法 第2条第3項第1号(輸入した者=製造業者)・第3条(欠陥による賠償責任)e-Gov
- 東京海上日動 PL保険・施設賠償責任保険/ugo「安心補償パック」(三井住友海上と組成、2024年12月)/JARA「広義のロボットに関わる保険商品の概要」(2007・背景参考)
- 経済産業省 電気用品安全法トップ・輸入事業者義務/JETRO 家電製品・電池の輸入手続き(2025年4月更新)
